【Novels】月日は百代の祝賀にて 第11話

The Month and day

 まだ五十過ぎではあると聞いていたが、白髪とその細身の体から老紳士のような風格がある。八丸教師に気付いた米登は、渋々前に向き直った。
「……相変わらずだな」
 先生が教壇についたと同時に俺は思わず呟いていた。耳にはクラス後方の扉が開く音が聞こえた。
 視線を聞こえた方向に向けると、ついこの間面識を持ったばかりの女子がこちらに歩いてくる。たしか、クラス発表翌日、同じクラスの生徒の囲まれていた際に「なんで、お団子食べてたの? 和菓子屋さんなの?」とか聞かれ「つい最近初めて食べたら、美味しかったの」とか、クラスの女子たちに質問攻めに答えていた姿が脳裏に浮かぶ。
「……もう、何も起きないじゃない」
 なにやらぶつぶつ言っているが、何故だか耳馴染みのある声だが、どうせ俺には理解できないことを言いているだろうから、聞き流そう。この一週間で俺もだいぶ学習したからな。
 そいつが俺の後ろの席に着くなり、不機嫌な声色を隠そうともせず声を掛けてきた。
「ねえ、まだ何か面白いこと起きないの?」
「……さあな、学校生活は始まったばかりなんだから、これからあるんじゃないか?」
 机の上を片付けながらそっけない返事を返す。
「……そうね」
 うしろから大きなため息が聞こえてきた。……わざと聞こえるようにやっているだろう。左の窓を見ると反射した百代の顔が同じように窓の外に向いていた。

 ホームルームが終わり、時間割を確認すると今日の最初の授業は体育だった。男女別に体操着に着替えて運動場に出ると、体育教師がタイムウォッチを持って、含み笑いを浮かべながら待ち構えていた。
 その表情から何やら嫌な予感がする。そして俺の予感はよく当たる。
 クラスメイト全員が運動場に集まったことをかくにんした体育教師は、皆の顔を眺めた後、再度不敵な笑みを浮かべた。

「はっ……はあ」
体を動かすことは特段嫌いでもないのだが、クラスメートたちと球技等で楽しく「きゃっきゃ」「わいわい」遊びの延長のような授業を期待していた。
「はあっ……まだか」
 けれど実際は自分の希望通りにはいかないもので、なぜだか汗を大量に流しながら学校の外周を走らされていた。
「あと三周もあるのかよ……」
 この学校の校門を抜けると、俺は滝のように流れる汗を体操着の裾で拭いながら愚痴をこぼしていた。
 まだまだ入学したばかりのぴかぴかの新入生。新しい学校生活には大いに希望を抱いていたのに、なんで初っ端から学校の外周を十周もランニングしなければならないのか。

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