本日の授業も何事もなく終わり、皆それぞれ、帰宅だったり部活に向かったりする中、俺はというと早急に帰り支度を済ませていた。その俺の姿を米登が不思議そうに見ている姿が目に入った。どうしてそこまで急いでいるかというと至極単純な理由だ。
後ろを振り返るとそこに百代の姿はなかった。先生に呼ばれて何かの手伝いに向かったようだった。
このままのんびりしていると、人のことを監視するなど宣う、厄介な奴につかまる可能性が大きいからだ。
急いではいるのだが、なるべく慌てた挙動を出さないように鞄を担ぎ上げ教室を後にした。二階から一階におり下駄箱まで来た。自分の名札のかかった下駄箱を開けるとそこで異変に気付いた。
「……ない」
自分の靴がないのだ。頭を抱えて思わずしゃがみこんでしまう。
なぜだ? まだ入学して間もないし、他人に嫌われるほど目立ってもないはずだ。ましてや表面的な、当たり障りのない関係を築くことは特段不得手でもないと思っていた。
「探し物はこれかしら?」
突然かけられた声に顔を起こすと目の前に見知った自分の靴が差し出されていた。
「おお、すまない。どこにあったんだ」
感謝の気持ちを伝えようと視線を上げていき、相手を確認した。
そこには見知った人物が冷徹な微笑を浮かべてこちらを見下ろしていた。
「どうせこんなことだろうと思ったわよ」
目の前に下げられた靴に手を伸ばすと、それに合わせて靴も頭上に挙げられた。
「……やあ、百代じゃないか。どこに行っていたんだ。探したぞ」
精いっぱい取り繕ってみた。
「白々しいわね」
まあ確かにそうだろう。思わず俺も頷いてしまった。
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