ジリリ……ジリリ……
耳元で何やらけたたましい音が鳴っている。耳を強く刺激する音に、否が応でも意識が覚醒てくる。
「眠い……」
体を猫のように丸めたまま、布団から顔を出し、騒音のもとを探す。霞む視界に小さな本棚の上で震える目覚まし時計を見つけた。スイッチを切って、前面の時間を確認する。目が開き切らないから確認することに時間が掛かったが——午前七時を少し回っていたことが分かった。
五分ほど布団の中で睡魔とせめぎあっていたが、意を決してベッドから降りると部屋のカーテンを開けた。日の光が部屋を照らすとともに俺の睡魔を急速にかき消していく。
ベッドから体を起こし、しばらく呆けた後、ベッドから降りて立ち上がった。昨夜準備を終えていたランドセルを手に取り、カレンダーで平日だと確認した後、自分の部屋から出た。
一階のリビングを目指して階段を下りていくと、香ばしく焼けた小麦の匂いが漂ってきた。
「おはよう」
リビングの扉を開け、まだ眠気の残る淀んだ声で本日の一声を発した。テーブルを見るとすでに朝食はできていた
「福太郎もうご飯できているわよ」
母さんが起きてきた俺に気付きキッチンから声を掛けた。自分がいつも食事をとる席に目を向けると、横では朝食を食べ終えた父さんがコーヒーを飲んでいた。
そこで朝食の風景に家族の一人が見当たらないことに気付いた。
「母さん、姉ちゃんは?」
「朝の部活があるって、早く出ていったわよ」
俺は「ふーん」と鼻で返事すると、ちょうど父がコーヒーを飲み終えてコップを置いた。
「それじゃあ、母さんそろそろ言ってくるよ。福太郎も学校遅れるなよ」
そういうと父さんは鞄を持って玄関の方まで向かっていった。
「行ってらっしゃい」
玄関まで見送りに行った母さんは横目で見ながら少し冷たくなったパンを口に入れた。
*
自宅を出た後はいつも通り見慣れた通学路を歩きながら、見慣れた景色を自然と眺める。
「うわっ」
同じ学校に向かう男子女子と、魚群のように集団を形成していると、軽く足を滑らせた。
転びはしなかったが一瞬背中がひやりとしたわけで、足元を見てみると薄ピンクの花びらが遊歩道に散乱していた。
少し視線を上に向けると、数週間前まで一面ピンクの花を咲かせていた木々も、今では半分近く緑へと咲き変わっていた。四月も終わりに近づき、気温もだんだんと暖かくなってきた。青空が顔を出す晴天の中を小さな風が吹き、足元の薄ピンクが青と混ざった。
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