学校に始業のタイムが鳴る一分前、1―Cと書かれたルームプレートをきりぎり潜り抜け、自身のクラスに入っていった。
窓際の机に目をやると見慣れた机、と言っても他と大して変わらないそこにカバンを置く。
「小綬、お前相変わらずだな」
前の席に据わっていた俺より少し背の高い男が、半場軽口だが、あきれた口調で声を掛けてきた。
声を掛けてきたのは小学生の時から付き合いのある米登(まいど)という男だった。自分より長身でがっちりとした体格は若干羨ましくもあるが、俺もいずれ追いつくだろう。成長期はこれからだ。
「……遅刻はしてないから問題はないだろ」
声を掛けてきた米登に突っぱねるような口調で返答する。
「貴重な朝の時間を有意義に活用しただけさ」
俺の言葉を聞いた米登は苦笑い、と言わなくてもすぐ分かる表情を浮かべていた。
「まあ遅刻にならなければいいけどさ。お前が目をつけられたら俺まで巻き添えを食らうかもしれないだろ」
「……そうなったらすまないけどな」
そう言われると俺も返す言葉はない。恐らくこのクラスでは一番仲が良いから、先生にも目を付けられる可能性は高いだろう。
ではなぜ余裕をもって登校しないのか。その理由は自分でも重々分かっている。
この世に生を受けてから今まで、一度たりとも早起きは得意ではなかったし、それに輪をかけて夜更かしをしてしまう性分だった。
この行動が自分で自制できれば良いのだろうが、今まで早起きという目標は、ラジオ体操などで半強制的に起こされる以外は滅多にない。まあ、俺の他にも、こんな性分のやつはごまんといるだろう。
「もう少し早く起きれば、余裕をもって登校できるだろうに」
「そうだけどさ」
「俺なんか三十分前には教室に来てるぞ」
米登は大きい体に見合わず几帳面な性格であり、「お前も見習うべきだ」とよく言ってくるが、人はそんなに容易く変わるものでもないと教えてやりたい。
「それに、俺より遅い奴が一人いるじゃないか」
俺はそういって後ろの席を見る。その生徒はまだ来ていないようだ。
「まあ百代はさ……」
それまで順調に俺を言い攻め立てた米登が口をまごつかせる。我ながら都合の良い、言い訳の要素が近くにあったもんだ。
米登の追及を逃れ「よかった、よかった」と安心していたところ、ちょうどHRのチャイムが鳴った。
生徒たちがそろそろと席に戻っていく。ほぼ全員が席に着いた際、ちょうど担任の八丸二郎(はちまる じろう)教師がクラスに入ってきた。
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