ただ百代に付いては注目を浴びる一番の理由を、入学早々俺は良く知ることになった。
「……そういえばさ、百代って、あの百代家だよな」
「ああ、そうじゃないか」
この学校の南側には、線路を挟んだ少し先に広大な山林が続く。その広大な土地を代々保有している百代家という名家がある。それは自分も知ってはいたが、現在の当主の子息はまだ小学生に入ったばかりだとは聞いていた。
「あの家に他に子供が言ったって話、聞いたことなかったけどな」
「さあな、俺も詳しくは知らないけど、現に百代はここにいるからな」
横目で友人たちと歩く百代を見ながら、自分の耳に届かない、知らない話はたくさんあるだろうと納得はした。
「……なんかもやもやするな」
クラス発表の日を思い出した。入学式に団子を手に持っていたりだとか、空に向かってあそこから来たとか——どこかで聞いた覚えのあるような話なんだが——。
*
一学年すべての生徒たちが体育館に入るとクラスごとに二列に並び始め、ざわつきながらも、少しづつ男女別に整列が進んでいく。
列が形になると、自分の定位置がだいたい分かり冷えた床に座る。女子の方も落ち着き、隣が誰なのかと、何気なく横を見ると先ほど米登との話題に上がっていた百代が座ろうとしていた。
真横で見る百代はやはり周りの女子とは違うと感じた。年齢相応のかわいらしさ——というのは感じないが、頭一つ抜けて美人だと感じる。身長は他の女子より少し高い程度ではあるが醸し出す雰囲気や芯が通ったような佇まいが彼女を大きく見せているのかもしれない。奇抜な性格をしているが黙っていると見とれるぐらいの容姿だからな。
「何? 何か面白いことでも思いついたの」
いつの間にか百代がこちらを見ていた。頭の中で覗かれたくはない妄想をしている間に目の前が見えなくなっていたらしい。
「ん……そうだな」
急に言葉を掛けられ驚いたが、なんとか取り繕えた気はする。百代の怪訝そうな表情や言動には完全に固まってしまったが。
「百代はどこか入りたい部活でもあるのかと思ってさ」
「……」
俺の問いかけに百代の眉間に険しさが宿った気がした。しばらく無言でこっちをにらみつけていたが、体育館の壇上に視線を向け、また改めてこちらに向き直った。
「本気で言っているの?」
「え……ど、どうしてだ?」
想定外の返答に思わず声が上ずってしまったが、百代はそんな俺をみて「はあ」とため息を吐いた。気のせいではなかったようだ。
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