【Novels】月日は百代の祝賀にて 第18話

The Month and day

 自身のクラスはこの中学校の本校舎二階に位置しており、入学したての一学年はすべてのクラスが同じ階に位置している。三階は主に二学年のクラスが配置されており、他学年の生徒はあまりこの階には立ち入らない。四階まで来るとブラスバンドの音がさらに強く感じる。音楽室から聞こえてくる音は防音効果から、耳を塞ぐほどではないがそれでもけたたましく響いている。
「学生生活、桜花してるなぁ」
 独り言を思わず呟きながら歩いていると、絵の具の独特な匂いが鼻に入ってきた。視線ををその先に向けると美術室と書かれたプレートが目に入った。
 廊下から通りすがりを装い、活動風景が目に入った。モチーフを囲んで数人の部員たちが熱心にデッサンをしていた。経験者から見ればまだまだ粗があるのだろうが、素人目からみればかけ離れた技量に思わず感心してしまう。
 こうしてみると文科系の部活もそれぞれ多彩な特色や楽しみ方が見受けられ、各生徒たちが青春の時間を使って懸命に取り組む姿は魅力的なんだなと多少なりの実感を受けた。
 学生部活というと運動系の部活が表舞台で日の目を浴び、文科系の部活は目立たなく、こじんまりと活動しているものだとの印象しか持ってなかった。そんなことは俺の思い込みでしかなく、皆の充実した表情をみると、自分も何かに打ち込まないとといけないのではないかという思いに苛まれる。
 ただ苛まれるだけで、それは決断には結びつかない。

 そんな皆の充実した学校生活をうらやましく思いながら通り過ぎていくと、目的としていた場所がようやく目に入ってきた。
 学校の四階の一番はずれにあるその場所は、他の教室等に比べて間取りが大きく、独特の安心する紙のにおいが充満していた。
 今までの部活のような目に見えた活気はないが、訪れる生徒にとって学校の中でも一二を争うほど重要な場所かもしれない。
 まあ、若干大げさかもしれないが、どの学校にもある図書室のことだ。
 この学校に入学してからまだ一度も訪れたことがなかったし、ちょうど何もすることがなく、暇でもあったので気の向くままに訪れてみようと、一つ思い立ったのだ。
 図書室に入ってみると思っていたよりも学生たちの姿が見受けられた。
 同じように同学年と思われる生徒が本棚の前で書物を吟味してたり、本棚の近くに設置された読書机では上級生が教科書を開き熱心にペンを走らせていた。
 入り口付近の貸出カウンターを横目に抜け、本棚に向かっていく。

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