学校に着き、廊下で他のクラスの同級生たちが騒ぐ廊下を縫うよう歩いていくと、毎日見慣れた自身の教室に着いた。
「福太郎おはよう」
「おはよう」
親しいクラスメートが教室の扉を開けた俺を見つけて、うきうきと声を掛けてきたので俺も返事を返す。
「お前、いっつも遅いよな」
自身の席に着いた俺に、クラスメートが笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「遅れてはないだろ」
そいつに一瞥をくれた後、軽口をたたきながら、ランドセルに入っていた教科書を取り出し、授業の準備をする。
「そういえば今日だよな、転校生」
「……そう聞いてはいるけど」
クラスメートが、今思い出した風を装って口に出してきた内容。先日、担任の先生が、少し遅れてこのクラスに転校生が来ることを朝のホームルームで話していた——俺も全く興味がない訳ではない。確か女子だったはずだ。
ガラガラ——と、教室の前方の扉が開いたのを、何やら妄想を浮かべている同級生の顔越しに確認できた。
「そろそろ始めるぞ。みんな席に着けよ」
担任の先生が教室に入りながら生徒たちに向かって声を掛ける。
級友たちは、「えー、もう始めるの?」とか「あんた達うるさいわよ」とか言いつつ、せわしなく席に着き始める。
全員が席に着いたことを確認した先生が、教壇に立ち生徒たちを見渡した。
「早速だが、みんな、この間話したことは覚えているか?」
先生の言葉に一瞬沈黙が生まれたが、すぐさま生徒達から素早い反応が返ってきた。
「転校生!」
「どういう子!」
「かわいいの?」
それぞれが思い思いの言葉を、大きな声で話していた際。
ガタッ
先生が入ってきたクラス前方の扉が、一瞬音を立てて動いた。
「……」
その音にクラスの生徒ほとんどが気付いたようで、クラスの中がしばらくの間沈黙に包まれた。
「……そ、それじゃあ入ってきてもらおうか。おーい」
「……」
先生が教室の外に向かって声を掛けたが、返事は帰ってこないし、教室に誰も入ってこない。ただ扉付近に人の気配は感じる。
「入ってきていいぞ」
「…………はぃ」
鈴虫でも鳴いたのかと思うほどの小さい声が返ってきた。
扉がゆっくりと開くと、ようやく意中の人物が姿を見せてくれた。
教室に入ってきたのは事前に伝えられた通り、女子だった。肩に届くくらいのセミロングの髪、同年代と比べても際立った白い肌、くっきりとした目元が印象的だ。
「かわいい……というか大人っぽい」
「うん、なんというか綺麗ね」
女子たちが転校生を見て各々感想を述べている。男子に至っては、ポカンと口を開けている者や、彼女の持つ不思議な魅力に口を開くことができない者。かく言う俺も彼女に興味を持ち始めていた——何故かというと、彼女の顔が真っ赤なことと、教室の床を踏み鳴らしているかと思うほど足がガクガク震えているからだ。
「よし、それじゃあ自己紹介をしてくれるか?」
先生に自己紹介を促された彼女は、ゆっくりと同級生の方に向き直った。
「……」
「……」
彼女は同級生たちとの目が合っても無言を貫いた——かと思ったが、よく見ると彼女の口元が小さく動いていた。
「……おそらく聞こえていないと思うぞ」
先生のその言葉に、彼女は一瞬肩を震わせ、次いで大きく叫ぶ程の深呼吸をした。俺を含めた同級生たちは体をのけぞって身構えている。
「小夜中と申します。これからよろしくお願いします」
大きな助走に比べて、あまりにも小さい跳躍だったが、何とか彼女の声が耳に届いてきた。
「これから小夜中も、このクラスの一員だ。みんなよろしく頼むぞ」
締めくくりの言葉を先生が述べると、彼女は促されて空いた席、俺の前にあるイスに腰かけた。
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