「ついて来なさい」と言うから、渋々ながら百代の後を歩いていく——しばらくすると、百代はある部屋の前で立ち留まった。中からトントンと小気味の良い音とともに、何やら良い匂いがする。その部屋の扉上を見るとルームプレートが掲げられ「家庭科部」と書かれていた。
身に覚えのある良い匂いは、毎朝良く嗅ぐ匂いから「味噌汁だろうか」と想像を巡らせ——そういえば朝ごはん何だったか。
「失礼するわ」
そんな俺の考え他所に、目的のある百代は俺の様に食欲へ気を取られることなく、部室に入っていった。
普段訪れない部室にためらいなく入る度胸はさすがだなとは思う。
*
部室内に入ると熱心に部活動、今は料理に熱中していた生徒達がこちらを見る。見知らない人物による突然の来訪に戸惑っているのが目に見える。正直申し訳ない気持ちは大いにある。
百代の方はというとあたりを見回した後、目的の人物を見つけたようで部屋の奥、おそらく新入生と思われる生徒たちが固まって料理をしているところにずんずんと向かっていった。
「海端さんだっけ」
「え、はいそうですけど……」
百代に海端と呼ばれた彼女、突然声を掛けられた少女は小さな味見用のおたまを持ったまま固まっていた。
百代はその少女を上から下までなめるように見ると——何やら満足げにうなずいている。彼女の方はというと、すごい怖がっているけどな。
「あなた学業は優秀な方?」
突然そんなことを聞かれ、どう答えようかためらっているようだ。
「いえ……、可もなく不可もなく平均的な方だと……」
正直な性格なのか、伏し目がちに照れながら答えてくれた。
「そう……うん」
何やら演技臭い溜めを作った後、
「実はね、私達はこの学校で超……学業等の向上を目的とした活動をしているの」
少女はぽかんとした顔をしている。
「何事も人数が多いと効果的だからね、新しい仲間の一人としてめぼしい生徒を探していたのだけど、授業間の休憩時間に勉強をする熱心なあなたの姿を見かけたの」
「そうでしたっけ……」
褒められたと思っているのか、若干照れながら返事を返した。ただ百代の目をよーく見るとなにか企んでいるような邪な感情が俺には見て取れるが。
海端の表情を見てタイミングでも見計らっていたのか突然両手で彼女の手を握った。
「そこで、あなたに一つお願いがあるの、……私達と一緒にこの学校で超常……学力向上活動に一緒に取り組まない?」
「え……、えーと」
海端が戸惑いつつも、突然手を握られて赤面している。傍から見ると美少女同士が手を握り合って見つめているように見える。何か倒錯的な雰囲気がして——まあこれはこれでよい眺めだなんて考えてしまう自分が恥ずかしい。
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