【Novels】善玉風子の災難 ラブレターをもらった友達

The disaster of Fuko

「善玉さん、おはよー」
「おはよう」
 朝のホームルーム前、廊下に立ち登校してきた同級生たちに挨拶をする。風紀委員として大切な仕事に一つだが理由はそれだけではない——発見!
「……ん? あなた! いつもよりスカートの丈が5ミリ短いじゃない!」
「お、おはよう善玉さん。そうかないつも通りかと思ったけど……」
 指摘された女子生徒がスカートを手で押さえつつ抗議の声を上げる。だが私は抗議の声を右から左へ受け流す。
「だめよ! 一旦短くする癖をつけたら、誘惑に負けてどんどん短くなるんだから! 私知ってるもん」
「そうかなぁ……、んー、分かったよ、ちょっと直してくる」
 しぶしぶ、そう言うと彼女は近くのトイレに駆け込んでいった。
「よかった、こっちの世界に帰ってきてくれて」
 彼女の姿を見届けた私は胸に手を当てて、心底安堵した。
「風子ちゃん! 今日も精が出るね!」
 突然後ろから声を掛けられ、一瞬驚いたが、聞き覚えのある声は私の脳裏にその姿をすぐイメージさせた。
「その声は見惚ちゃん、おはよう!」
 振り返ると私の親友の一人でもある、一目見惚ちゃんが立っていた。私よりは短い肩にかからない程度の髪型に、クリっとした丸い目。何より制服の着こなしが素晴らしい。まるで入学前に見たカタログモデルのようだ。
「すっかり板についてきたね、風子ちゃんの風紀委員」
「そうかな、私なんてまだまだよ。今朝も服装の乱れを20人ほど指摘したけど、先週に比べても全然減っていないんだから」
「た、大変ね……」
 見惚ちゃんは一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが、一旦視線を落とすと、若干表情を赤らめて、こちらに向き直った。
「実は風子ちゃん、ちょっと相談があって……」
「え? なに、どうしたの?」
 普段と違う雰囲気の彼女に聞き返すと、その答えというように、私の前に右手を差し出した。
 その手には一通の手紙が握られており、私はそれを受け取った
「……なにこれ、手紙? 私に?」
「今朝来たら下駄箱に入っていたの……」
「…………え?」
 彼女から下駄箱という言葉を聞いた瞬間、私の思考は一時停止となり、反対に両足は小刻みにガクガクと震え出した。
「今時ラブレターなんて古いよねー、でも私どうすればいいのか分からなくて」
 憎まれ口をたたきながらも、若干嬉しそうに話す彼女から「ラブレター」という言葉を聞いた瞬間、私の両手までも激しく震え出した。
「らららラブレター? ままままさかねー、みみみ見惚ちゃんがそんななななな」
 震える口調で訳が分からない言葉を口走りながら、彼女の言う手紙を裏返した——ハートマークのシールが貼られていた。私の目に涙が滲んだ。
「ヤブレターーーーーーー!!」
「風子ちゃんーーーーーー!!」
 全身全霊でラブレターを細かく破く私の姿に見惚ちゃんは驚愕して眼を見開いていた。
「……ふう、これにて一件落着」
 足元に散らばった不純な手紙を拾い集めると、視界に入った見惚ちゃんの足が震えていることに気が付いた。
「一件落着、じゃないわよ! なんで破ったの、まだ読んでもいないのに……うぅ」
 先ほどより顔を赤くした見惚ちゃんも、目に涙を浮かべていた。
「見惚ちゃん、まだ中学生なんだからこんなの貰っちゃだめよ。結婚を前提としたお付き合いか、せめて成人してからじゃないと」
「うぅ、風子ちゃん、それは長すぎるよ」
 一向に泣き止まない彼女。悩んだ末、親友である見惚ちゃんに対する私の思いをぶつけることにした。
「それに見惚ちゃんと一緒の学生生活、私まだ失いたくないよ」
「……ぐす、風子ちゃん」
 お互いの顔を見つめた後、ぎゅっと二人で抱きしめあった。
 周りの同級生達は怪訝な表情を浮かべているが、それよりも私は誇らしかった。この学校の風紀をまた一つ守ったのだ。

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