【Novels】月日は百代の祝賀にて 第23話

The Month and day

「これで最後ですね、あとは任せてください」
 正面でいくつかの本を抱えた彼女が笑顔を返してくれる。小柄な彼女には荷が重そうに感じる。
「本当に大丈夫か?」
「はい、気にしないでください」
「そう……ありがとう。また来るわね」
 俺と百代は互いに顔を見合わせたが、彼女の好意を汲んで、その場をあとにすることにした。彼女も手に持った本を片付けようと本棚へと振り返った——。
「きゃあ!」
 彼女に背を向けた瞬間、突如悲鳴が上がり、百代とともに声のもとへ反射的に振り返った。
 俺たちの目に飛び込んできたのは、図書委員の彼女が、足をもつれさせ近くの本棚に体をぶつけた瞬間だった。彼女は手に抱えた本を滑り落とし、傾いた本棚からも大量の本が床に散乱していく——次の瞬間、俺は自分の目を疑った。
「ちょ……うそだろ」
 ぶつかった本棚がぐらぐらと揺れた後、ゆっくりと倒れ始めた——彼女の方に。
 彼女の身長の倍はあろうかという重そうな本棚の動きがスローモーションに映る。ただ突然の出来事に俺の足も口も全く動かない。
 冷や汗が背筋を通った瞬間、俺の横にいた百代が本棚に向けて素早く飛び出した。その姿を見て、俺の足もようやく動いたが——とても間に合う距離ではなく、それは百代も例外ではない。本棚の倒れるスピードは絶望的で、俺は思わず目を瞑ってしまいそうだった——がそれは出来なかった。
「————」
 先ほどの一瞬よりも俺は自分の目を疑った。
先ほどまで加速度的に倒れてきた本棚が彼女の手前で急に減速したように感じた。何が起こったのか——まるで時間が止まったかのような瞬間。
「でやあぁぁぁ!」
 百代がダイビングジャンプとともに彼女を抱えて床を滑って行った。
 ドガァァン!
 耳を劈く大音とともに本棚が床に衝突した。
 あまりの出来事に、図書室に残っていた生徒たちが駆けつけてくる。
 生徒たちが彼女や百代や俺に次々と声を掛けてくる。けれど、俺はそれを上の空で聞き流すしか出来なかった。

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