【Novels】月日は百代の祝賀にて 第25話

The Month and day

「……言っている意味がよく分からないが」
 予期しない名指しに多少狼狽しつつ、またこの不毛な会話を終わらせることができなかった事に頭を悩ませた。
 その反応は百代もある程度予期していたからなのか、さもありげな表情を浮かべていた。
「やっぱり自覚はないのね」
 百代は図書室にまだ残っている他の生徒達を見渡し、話を続けた。
「あなたは今までの生活の中で他の人間と自分は違うと感じたことはないの?」
「俺は至って普通の日本人だ」
 生まれてから今までを思い返してみても、他人より秀でていることや劣っていることは思い浮かぶが、百代の言う意味はこれとはまったく違うものだろう。
「それにお前のいう時間の歪みとか脳波とかの話は、俺にとって難しくて、いま少し要領がつかめん」
「そう……、まあいいわ、いずれ分かることになると思うから」
 百代はそう告げると手元にある大量の本を整理し、一部の本を鞄にしまいだした。まだ話は終わってないのだが。
仕方ないから、俺も読みかけの本をきりの良いところまで読んでから帰宅しよう。
 一通り片付けを終えた百代が鞄を持ち上げ帰宅しようと席を立った。
「そうね、一つ伝えておかないといけないかもね」
 鞄を持ち、こちらにふり向いた百代は微笑を浮かべていた。
「まだ何かあるのか?」
「私の正体を教えたからには、あなたは私の監視下に置かせてもらうから」
 そう告げるとうきうきとした足取りで何やら上機嫌に図書室を出ていった。
 物騒な言葉に少々固まっていた俺はふと我に返り、心の中で内を言っているんだかとつぶやくと、一冊の興味を魅かれたSF小説を手に持ち、カウンターまで持っていった。

 先程までの出来事を思い返していたが、待っていた信号が青に変わると左右を確認して自転車にペダルを回し始めた。
「久しぶりに辞書でも引いてみるか」
 百代が先ほど言っていた監視の意味が俺にはよく分からない。もしかしたら俺の知らない良い意味が隠されているかもしれない、と期待を込めた。
 ただ、もやもやした気持ちは晴れないまま、日が沈んだ通学路を帰っていくことになった。

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