「いいものがあったわ」
しばらくして百代がなにやら手に持って帰ってきた。どこかで見たことがあるような小箱のようなものだった。
「貸出しカードの返却箱だな」
そういえば見た覚えがある。図書室でよく見るあれか。
椅子に座っていた俺は百代に手招きをされ、扉付近にある昔使われていたと思われるカウンターの前に向かった。
「それ、どうするんだ」
俺の問いかけに何やら企んでいるような笑い顔を返してくる。
「ここに依頼とかを募るのよ。目安箱のようなものよ」
持ってきた箱をカウンターに設置すると、自身の胸ポケットをあさり出し、手帳を取りだした。
「……」
「これだけじゃ分からないからね。見出文を掲げないと」
一心不乱に筆を走らせた百代が、何やら書き終わるとそのページを破って先程の箱に挟み込んだ。何が書かれているのか気になり横から覗き込んでみる。
『困りごとがあれば当依頼箱まで。SF、ミステリー、ファンタジー、どんな依頼も万事解決! ※対価は応相談 』
雑だが愛嬌のある丸っこい字で、こんな文章を書いていた。というか対価を取る気なのか。
「別に金貨を要望しているわけじゃないわよ。こちら側が納得できるような条件を提示してくれればいいの」
「……ただでさえ何をしているか分からないのに、この文章を見たらますます依頼なんて来ないんじゃないか」
百代は「そうかもねぇ」と、俺の意見に同意した。
「建前のようなものよ。そうしないとこまごまとした話が大量に集まりそうだから」
悪戯が増えても困るというのは分かるが、ここに書かれていること自体が悪戯のような気もする。
「よし、できた」
先程の依頼箱がカウンターの上に置かれているが。ここに何かしらの依頼相談があるイメージが全くわかない。
「なんか、賞金稼ぎみたいね、うん、かっこいいわ」
しばらく満足そうに眺めていた百代は何かを思い出したかのようにこちらを見た。
「小綬、今から勧誘に行くわよ」
唐突に告げられた話に唖然とする。
「勧誘って、俺たち以外にこんなところに誰か呼ぶつもりか?」
「こんな所って失礼ね。私たちの立派な秘密基地じゃない」
そうは言うが……、今から見ず知らずの生徒達に勧誘を始めるのか、想像しないことが続いて頭が痛くなってきた。
「なぁに、目途はもうついているの。一人めぼしい子を見つけてるから」
嬉々とした表情の百代の横顔を見ながら、目をつけられた生徒に哀れみの感情が浮かんでくる。男だったらこいつの見てくれに騙されて、喜んで付いてくる奴もいそうだからな。
コメント